闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『GOTH 僕の章』乙一

 『GOTH』後編。『夜の章』の記事にも書きましたが、この短編集が、その残酷で冷徹な本性を顕わす、「黒乙一」的怪作。
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 乙一作品には、残酷なものも多い。「SEVEN ROOMS」(『ZOO 1』収録)には顔をしかめたし、「夏と花火と私の死体」のラストには背筋が寒くなった。でも、この『GOTH 僕の章』には敵わないと思う。これほど残酷な小説を、僕は他に、読んだことはない。
 「リストカット事件」…僕は化学準備室の片づけをするという教師を手伝うことにした。その化学教師は、試験問題を化学準備室の机で作成するという噂があった。そのメモをごみ箱に捨てる可能性があり、片づけのついでにそれを手に入れられないかと考えていたのだ。しかし、僕がごみ箱の中から見つけたのは、妙なものだった。腕の先端が切断された人形。それは、僕に最近テレビを賑わせているリストカット事件を思い出させた。道を歩いていた人間が、後ろから殴られて気絶させられ、手首を切断されるという事件である……。
 「手」に魅せられた、二匹の妖怪の物語。かなり短い上、結末もあっけないので少々、拍子抜けしてしまうけれど、『夜の章』ではわずかに覗かせるだけだった「僕」の本性が顕わになります。「暗黒系」に続き、森野にとっては少々、受難ですが、一方で鈍感な彼女は、その受難の真の意味には、まったく気づいていません。
 作中にちょっとしたトリックが仕掛けれ、サスペンスを盛り上げる効果を果たしていますが、種明かしの前に少しもったいない記述があって、効果を半減させてしまっているのが残念。乙一らしからぬミスというか、ミスというのは大げさにしても、ちょっと不満を感じる書き方でした。種明かしは、最後に一気にやらないとね。

 「土」…佐伯はいつのころからか、土の中に生き物を埋める、という妄想に取り付かれていた。子供のころから、自宅の庭に水をやり、植物の世話をするのが好きだった。同時に、心の深い部分で、生きている人を箱に閉じ込めて地面に埋めることを想像する。そのようなことを想像する自分に嫌悪感を覚えながらも、その想像はやめられなかった。そしてある日、佐伯はついに、その想像を実行に移してしまう。近所に住む少年・コウスケを埋めたのだ。それから三年後、佐伯は職場からの帰り道、偶然見かけた少女をまたも埋めてしまう。その少女の持っていたカバンを探ると、生徒手帳が入っていた。そこに記された少女の名前は、森野夜……。
 全篇に渡って、犯人の視点からのみ描かれる倒叙形式。それだけに、犯人の内面の葛藤がかなり詳しく描かれています。『GOTH』に登場する犯人たちはみんな妖怪とされていますが、この作品の犯人だけは、内面がきっちり描かれていることもあって、人間味があります。それでも、やはりこの犯人も人間<妖怪、という感じなのでしょう。生まれたときから心の中に、怖ろしい化け物を飼っている人物。だから、「なぜ埋めたのか」に理由はなく、ただ「埋めたくて、埋めてしまいました」と答えるよりほかないのです。
 ここでの「僕」もひどいです。そしてここで描かれる物語には、あまりにも救いがない。悲しすぎて、残酷すぎる物語。ある意味、これこそ《黒乙一》か。

 「声」…姉は私より二歳年上で、死んだとき二十歳だった。二人きりの姉妹だったから、いつも姉を見て私は生きてきたようなものだ。子供のころ、私と姉は仲が良くて、いつも一緒に遊んだ。それが、数年前から私たちの間に、わずかな溝ができた。私と話をしていると、姉が、わずかに不機嫌そうな顔をするときがあったのだ。その姉が、町外れの廃墟で、誰かに殺された状態で発見されてから七週間が過ぎた。私は学校から帰る途中、一人の少年に声をかけられ、一本のカセットテープを手渡された。そのテープに入っていたのは、殺される直前に録音された、姉の声だった……。
 殺された人物が死の直前に発した声を、その人物の肉親に聞かせるという、悪趣味極まりない行為が描かれる本作。趣味の悪さでは、「暗黒系」に匹敵しますね。プロローグとエピローグ以外、すべて「私」こと北沢夏海の視点から描かれますが、彼女と犯人が対峙するクライマックス、そこで彼女が犯人に発する言葉は、ちょっとリアリティがないような気がします。感情の流れが、いまいち納得感にかけるというか。エピローグでの森野の態度にわずかな救いを感じますが、逆にそんな彼女を見つめる「僕」の冷徹な姿勢に、そんな小さな《救われた感》は簡単に吹き消されてしまう。やっぱり、残酷な小説です。

 「人間には、殺す人間と、殺される人間がいるね」。「声」の作中で「僕」が発する台詞ですが、『僕の章』の三篇を通じて、「僕」が《殺す側の人間》であることがはっきりしてきます。そのことに世界で唯一人、気づいている森野が、最後に見せる表情は切ない。そしてやっぱり、「どんな理由もなく、殺したくなる」、そんな人間を淡々と描き続けるこの作品は、残酷だ、と感じずにはいられない。事件の異常性・猟奇性や、死体のエグさよりも、その淡々とした描き方こそ、何よりも残酷。こんな残酷な小説は、ほかに読んだことがありません。
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Theme:推理小説・ミステリー
Genre:本・雑誌

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comments(0)|trackback(2)|読書|2008-09-27_09:34|page top

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【本】GOTH 僕の章
          『GOTH 僕の章』     乙一     角川文庫先日読んだ『GOTH 夜の章』が相当面白かったので、こちらの『僕の章』も期待して読んだ。【story】この世には殺す人間と殺される人間がいる。自分は前者だ―そう自覚する少年「僕」。殺人鬼の足跡
「乙一」の感想
「乙一(おついち)」著作品についての感想をトラックバックで募集しています。 *主な作品:夏と花火と私の死体、GOTH リストカット事件、ZOO、暗いところで待ち合わせ、七つの黒い夢、さみしさの周波数、きみにしか聞こえない―CALLING YOU、GOTH、小生物語、失踪HOLIDAY...

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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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