闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『天帝妖狐』乙一

 久しぶりに乙一。我孫子武丸氏絶賛の「A MASKED BALL――及びトイレのタバコさんの出現と消失――」と表題作「天帝妖孤」の2作収録の本書は、『夏と花火と私の死体』に続く、著者にとって2冊目の本ということになります。
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 先述のとおり、本書には2作の中篇が収録されています。解説の我孫子さんは「A MASKED BALL」を絶賛していますが、僕個人としては表題作の「天帝妖孤」の方を推したい。乙一作品で、これほど繊細な優しさに溢れた作品を読むのは、初めででしたから。
 「A MASKED BALL」…剣道場の裏手にあるそのトイレは、学校の敷地の隅に位置していて、人もあまり通らない。使う人間が少ないからか、中は小奇麗で、壁に落書きひとつなかった。人目をしのんでタバコを吸うにはもってこいの場所で、高校入学以来、僕はそこの個室を自分の巣にしていた。二年生の秋、そのトイレに“ラクガキスルベカラズ”という落書きが書き込まれた。それが、僕の周囲を騒がす大事件のきっかけになるなんて、そのときは思いもしなかった……。
 しつこいようですが、我孫子さん大絶賛・大激賞の一作。たしかに、ネットの匿名性をめぐる問題意識をトイレの落書きに置き換えて表現したセンスは秀逸だし、巧妙に散りばめられた伏線やミスディレクション、絶妙な緩急のついたストーリーの転がし方など、サイコ・サスペンスとしての完成度は、ほとんど完璧に近い。だから、文句なくおもしろいのは確かなのですが、それだけといえばそれだけなのですね。
 それだけじゃアカンのかい、と言われると、アカンのですよ、乙一さんの場合は。乙一という作家のいちばんの魅力は、特定のジャンルに縛られず、むしろ既存のジャンル小説の括りを軽々と飛び越えてしまったり、ときには複数のジャンルをクロスオーバーしたり……そんな自由さだと思うんです。デビュー作の「夏と花火と私の死体」からして、サスペンスなんだかホラーなんだかファンタジーなんだか、どれでもあってどれでもないような不思議な作品です。その点、我孫子さんの解説文にもあるように、「普通のサイコ・サスペンス」という括りに回収されてしまう本作は、「さすが乙一!」と思わせるようなインパクトにやや欠けるような気がするんですが……。ただ逆に言えば、普通である分アクや癖は弱いので、人に勧めやすいかもしれない。乙一ワールドへの入り口とするには、もってこいかもしれませんね。

 「天帝妖狐」…杏子がその男に出会ったのは、ある日の学校の帰り道。目の前で行き倒れかけていたその男を、介抱したのがきっかけだ。夜木と名乗ったその男は顔を包帯で覆い隠し、全身に汚れた黒い服をまとっていて、その体から人を遠ざけるような、不思議な禍々しさを発していた。行く宛てのない夜木のために、兄のつてをたよって工場の仕事を紹介してもらった杏子だったが、まもなく夜木は工場で問題を起こし、杏子の前から姿を消す……。
 これはやばい。泣きそうになった。子供のころの孤狗狸さんあそびが原因で、「人ならざるもの」に体を乗っ取られてしまった夜木の悲しみと、そんな夜木が出会ったごくささやかな、しかし何ものにも代えがたい優しさが、ひたすら深く心に染みる。夜木の手紙と杏子の回想という二つの場面を交互に描く手法も効果的で、最初にある程度明示される結末に向かって、徐々に感動の外堀を埋めていくというのかな、淡々と、しかし確実に、読者を物語世界に引き込んでいきます。序・中盤の、さりげなく描写される夜木の孤独感や、物語的なクライマックスにあたる凄惨で残酷な場面、それらが、結末の切なくも純粋な「感謝」の想いを際立たせる。ラスト13行の文章は本当にやばいです。我ながら、よく涙腺が持ちこたえたもんだと思います。小説を読んで、これほど純粋に感動したのは久しぶり、いや初めてかもしれない。
 『GOTH 僕の章』の残酷なイメージが強かったこともあり、乙一さんがこんなに優しい物語を書くなんて、意外でした(書ける力があったことは意外でもなんでもないですが)。クライマックスの凄惨な暴力シーンは「黒乙一」的ですが、ラストの圧倒的に深い感動は、黒とは対極にある「白乙一」的なもの。というか、「白」とか「黒」とかどっちでもいいだろ、この際。誰だよ、白黒言い出したヤツは。――とにかく、自分のお気に入り具合と、他人への勧めやすさ、その両面から見たら、僕が知ってる乙一作品ではこの「天帝妖孤」が間違いなくNo.1です。

 久しぶりに読んだ乙一作品ですが、予想以上によかったです。『GOTH』が正直あんまり好みじゃなかったんでちょっと遠ざけていた部分があったのですが、この『天帝妖孤』は、どうしてもっと早く読まなかったんだろうというくらい、おもしろくて、感動して、満足のいく本でした。また別の作品も読んでみようかな。でも、そうしたらまたびっくりするぐらい違う作風で、面食らうんだろうなぁ。乙一ってそういう作家ですからね。
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comments(0)|trackback(1)|読書|2009-11-10_23:27|page top

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乙一 『天帝妖狐』 感想
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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
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