闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『スイス時計の謎』有栖川有栖

 有栖川有栖の国名シリーズ第7弾。2003年、第4回本格ミステリ大賞の候補作になった傑作短編集。
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 本格ミステリ大賞の候補になったのは短編集『スイス時計の謎』の全体であって、一編の短編「スイス時計の謎」ではなかったことに、本格ミステリ大賞の選評を読んでて気づいた。もし表題作のみが対象だったら(あるいは短編小説部門があったら)、この作品は本格ミステリ大賞を獲ったでしょう。作者は後に『女王国の城』で、この賞を獲ったからよかったけど。
 
 「あるYの悲劇」…インディーズロックバンドのギタリストが、愛用のギターで頭を殴られて殺害された。被害者は息絶える直前、壁に血文字で、アルファベットの「Y」に見えるダイイング・メッセージを書き残していて……。
 ダイイング・メッセージに焦点を当てた作品。「あとがき」によれば、「〈本来は幾とおりにも解釈できるはずのダイイング・メッセージの意味をいかにして確定させるか?〉に挑んでいる」という。そのテーマに関して言えば、「できるかぎり別解を打ち消したつもりだ」と作者自身が言うとおり、限りなく「これしかない」という答えに近づいていると思います。ただ、犯人の名前に関するくだりには「えーっ!」という感じ。だって、火村でさえ「はったり」だったと認めているんだから。

 「女彫刻家の首」…女性彫刻家が、アトリエに使用していた民家で殺害された。死体からは首が持ち去られ、替わりに被害者の作品から切り取られた、石膏の女神の首が置かれていた……。
 「なぜ死体の首が持ち去られたのか?」という謎をキーにした作品ですが、容疑者の数も少なく、謎解きはなんだかテレビの2時間サスペンスのようで、ちょっと物足りなかったかな。結末は後味が悪い。アリスは「天の裁き」と言ったけれど、僕にはむしろ、被害者の呪いのように感じられました。僕も神様は信じない性質なので、最後に毒づく火村の苛立ちは理解できる気がします。

 「シャイロックの密室」…高利貸しを営む男性の死体が発見された。被害者は拳銃で頭を打ち抜かれており、現場が密室だったため自殺のようにも見えるが、拳銃の硝煙反応が右手から出たのが問題だった。じつは被害者は左利きだったのである!
 犯人の視点から描いた倒叙もの。あとがきに「『ブラジル蝶の謎』以降、国名シリーズの短編集にはいつも一本だけ目先を変えて倒叙ものを入れることにしている」とあるのを見て、「あれ、そうだっけ?」と思ってしまった。言われてみれば、「ペルシャ猫の謎」にも「英国庭園の謎」にも、倒叙ものが入っていたような……。謎解きの主題は“密室”ですが、トリックはまあ、平凡というか、驚くような発想のものじゃあなかったですね。

 「スイス時計の謎」…大阪の経営コンサルタント会社の社長、村越啓が殺された。村越は高校時代のサークル仲間と二年に一度、“リユニオン”と称する同窓会を開いており、殺されたのはその集まりに向かう直前だった。リユニオンのメンバーは全員揃いの腕時計を持っており、集まるときはそれを嵌めてくるのが慣例になっていたが、村越の手首からはその時計が持ち去られていた。犯人はなぜ時計を持ち去ったのか……。
 作者いわく「地味な謎」ですが、解説の太田忠司氏をはじめ、本格ミステリ大賞の選評でも多くの選者が絶賛・激賞しているくらい、この作品のロジックは素晴らしい。端正で精密で、美しく力強い。被害者が肩を痛めていたことや、腕時計を文字盤が内側に来るように嵌める習慣など、一見蛇足にも思えるようなことも、すべて火村の推理を裏打ちする傍証であり、謎解きの伏線になっているのです。
 また、青春の続きを生きている中年男たち、それぞれの現実をリリカルに描いた文章もとても美しく、人物描写もいつも以上に情感豊かで、有栖川ミステリらしい魅力が溢れています。

 「スイス時計の謎」の作中、「ロジックが世界を支配する本格ミステリ」という言葉が出てきますが、逆から見ればそのロジックのために世界のすべてが仕組まれているという見方も出来るのが本格ミステリでしょう。巽昌章氏が『双頭の悪魔』の解説文で述べている「小説の合理性を高めようとする意志が他方で不自然、不合理を生んでゆく」「奇怪な因縁ばなしのように見えるだろう」という意見を思い出しました。

 表題作は非の打ち所のない傑作ですが、残りの3編の出来がいまひとつという理由で本格ミステリ大賞を逃したのは残念な気がしますね(個人的には、「あるYの悲劇」のダイイング・メッセージの解釈はけっこう好きですが)。ただ、これは表題作だけでもお金払って読む価値があります。「フーダニット型」の本格ミステリの、決定版といっていいんじゃないでしょうか。「〈本格ミステリ〉ってどんなの?」って訊かれたら、「これを読んでみなよ」って迷わず言える、言っていいと思う。150ページ強の中篇ということで、タイプは全然違いますが、『本陣殺人事件』と並んで、中篇ミステリの歴史的傑作だと、僕は思います。
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Author:tamacat
行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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