闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『山伏地蔵坊の放浪』有栖川有栖

 有栖川有栖の異色短編集。主人公が山伏、というビジュアル的なインパクトもさることながら、ミステリ小説の体裁としても、極めて珍しい語り(騙り)のスタイルを採用しており、解説の戸川安宣氏いわく「ちょっと大袈裟な言い方をすれば凡そ七十年ぶりに出現した推理短編集なのである」といいます。もっとも作品内容そのものは、七十年ぶりなどという時の隔たりに気後れする必要などまったくない、気軽に読める楽しい読み物です。
山伏地蔵坊の放浪 (創元推理文庫)山伏地蔵坊の放浪 (創元推理文庫)

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 毎週土曜日の夜、ダンディなマスターのいるバー『えいぷりる』に集まる僕ら常連客たち。僕らの目当ては、一年半ほど前からこの街に逗留している山伏、地蔵坊先生の話を聞くことだ。彼が話すのは、日本中を放浪するなかで出くわした様々な事件の体験談なのだが、それらはすべて殺人事件、それも奇妙で風変わりな事件ばかりなのだ。おっと先生がお気に入りのカクテル『ボヘミアン・ドリーム(さすらい人の夢)』の二杯目のグラスを空けた。そろそろ話が始まる頃合いだ。いったい今日はどんな話を聞かせてくれるのだろう……。
 
 第一話「ローカル線とシンデレラ」…地蔵坊の話――。ある山間の町、銅山と麓の町を結ぶローカル線でのこと。私は峰入りの修行を終え、麓の町に投宿するため駅に向かった。一日に六往復しかしない列車は十分ほど遅れてきた。車掌によると、置石があったらしい。乗り込んだ車両には私一人しかいなかったが、前の車両には数人の乗客がいた。それは地元出身の映画女優・星本舞とその関係者という。麓の町についてみると、人だかりができていた。星本舞歓迎の連中かと思ったが、そうではなかった。下り列車の車中で殺人事件があったのだという……。
 感想。最近読んだアンソロジー『無人踏切』に、赤川次郎氏のデビュー作「幽霊列車」が収録されていて、読んだのですが、雰囲気がこの作品とよく似ていました。田舎のローカル線という舞台に加えて、「何かを守るために」という事件の動機も。あまり書くとネタバレになっちゃうけど。最後の一行が皮肉で、この作品集の方向性がよく表れています。

 第二話「仮装パーティーの館」…地蔵坊の話――。旅の途中、暗い山道に突然現れた大きな屋敷。中では仮装パーティーが開かれており、バットマンやダース・ベイダーの扮装をしたもの、パンダや相撲取りの着ぐるみを着たものがいる。狼男とお岩さんに連れられて屋敷に入った私だったが、パーティーもお開きにしようかというころ、パーティーの主催者とその甥が死んでいるのが発見されて……。
 感想。事件が起きたのが仮装パーティーの最中というのが、この作品のミソ。山伏の提示した真相に対して、『えいぷりる』の常連客から入る突っ込みがなかなか厳しいのは、この手のミステリに対してありがちな批判を意識してのものでしょう。それに対する山伏の返答も、そういう批判に対する作者自身の答え――というかミステリファンとしてのスタンス――を主張しているように思えます。どちらの言い分にもそれなりに理はあって、結局は「好きか嫌いか」になってきちゃうと思うんですけどね。

 第七話「天馬博士の昇天」…地蔵坊の話――。日本海沿いの崖の上の一軒家で、人里離れて暮らす発明家の博士。ロボット工学の博士号を持ち、十の特許と三十以上の実用新案を取得しているという博士だが、かつて東京で開いていた発明セミナーの生徒から、アイディアの盗作を訴えられている食わせ者でもあった。その博士が崖から転落して死んでいるのが発見される。博士の頭には殴られて出来た傷があり、自殺や事故と見るには不自然な状況だが、雪の積もった崖の上の地面には、博士の足跡一組しか残っておらず……。
 感想。〈雪の上の足跡〉というのは本格ミステリにおいてはほんとによくあるテーマ。『金田一少年の事件簿』でもあったし、法月綸太郎氏の『雪密室』もこのパターン。有栖川氏自身も『スウェーデン館の謎』でこのテーマを扱っています。しかしこの「天満博士の昇天」のトリックは、ちょっと通常の本格ミステリのセオリーからは外れているかもしれない。ある意味、飛び道具だもん。でもちゃんと伏線はあって、アンフェアな書き方はしていないので、ミステリの道を踏み外してはいない。この辺がアリスさんのバランス感覚ですね。
 この話の最後に、「他にもそんな体験をなさっているんですか?」と問われ、「まだ、いくつかありますよ」と答える山伏。そのあとに続く言葉を読んで、(あれ、この人もしかして……?)なんて感じたのは僕だけでしょうか。だって、「離れ小島」はともかく「火山」っていったら、殺人現場としてはなかなかレアでしょ。それにあの人なら、後に山伏になっていたとしても違和感ないし……。ただ、第一話で山伏の年齢が「四十半ば」とされているから、ちょっと年齢が合わない気もするなぁ。

 さて、解説の戸川安宣氏のいう、七十年ぶり云々という話。詳細は解説を読んでいただくとして、早い話が本書の語り=騙りのスタイルは、バロネス・オルツィ作「隅の老人」シリーズに倣ったものだということです。残念ながら僕は「隅の老人」を読んだことがないのですが、探偵自身が事件のリポーターを兼ねる、つまり自分だけが答えを知っている問題を得意げに喋って、最後に自分で解いてみせるというスタイルが「隅の老人」以来、じつに七十年ぶりに現れたスタイルだというのです。七十年間、他にまったく作例がなかったのかどうかは定かではないけれど、「創元推理」編集長が思いつかないというのだから、有名なものは皆無なのでしょう。
 戸川氏の解説は僕のような古典オンチには勉強になることばかりでしたが、どうもこの「隅の老人」スタイル、ある面でアンチミステリのような顔を持っているような気がします。ミステリの王道を歩み続ける有栖川氏の作品としては極めて異色。山伏が探偵というのも異色ですし、描かれる事件の方も風変わりなものばかりと、異色づくしの一冊となっています。作者自身「おかしな味がしたらお詫びします」と述べてますが、いやいや、これがなかなかの味。地蔵坊先生が再び『えいぷりる』に現れる作品を、読んでみたいなぁ。
隅の老人の事件簿 (創元推理文庫 177-1 シャーロック・ホームズのライヴァルたち)隅の老人の事件簿 (創元推理文庫 177-1 シャーロック・ホームズのライヴァルたち)
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Theme:推理小説・ミステリー
Genre:本・雑誌

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comments(0)|trackback(0)|読書|2010-01-23_01:16|page top

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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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