闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『狩人は都を駆ける』我孫子武丸

 あの怪作『ディプロトドンティア・マクロプス』と同じ主人公が活躍する中短編集。時系列的には『ディプロトドンティア~』の前日談という設定です。
狩人は都を駆ける (文春文庫)狩人は都を駆ける (文春文庫)
我孫子 武丸

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 大手リサーチ会社「帝都リサーチ」を退職し、京都で個人事務所を開業した私。しかし仕事の依頼は少なく、帝都リサーチ時代の知り合いからお情けで回してもらえる仕事でどうにか糊口を凌いでいる。そんな私にとってもう一つの悩みは、同じビルの向かいにある、犬猫病院だ。私は動物嫌いだし、おまけに院長の沢田は人の迷惑を顧みない男ときている。そしてこの立地のおかげで、私のもとには時折、動物がらみの奇妙な調査以来が舞い込んでくるのだが、その結末はいつも、ろくなことにはならなくて……。

 我孫子武丸ファンサイト「喫茶 我孫子」
 
 表題作は110ページ以上ある中編、それ以外は40~50ページの短編で、書き下ろし一編を含む全部で五編の作品が収録されています。動物嫌いのペット探偵(?)の、不運で多難な日々とは……?

 「狩人は都を駆ける」…沢田から藤井喜美子という老婦人を紹介された。下鴨神社の近くにあるお屋敷に住み、さる大物政治家の愛人だとも隠し子だとも言われる彼女の依頼は、誘拐されたドーベルマンを取り戻すための身代金一千万円の受け渡しと、犯人側との交渉だ。犯人からの指示で下鴨神社の境内に向かった私を待ち受けていたのは……。
 これは面白い。110ページ程と長さ的にもいい具合のボリュームがあって、前半はユーモア・ハードボイルド調、後半は緊迫したサスペンス・アクション調というメリハリもいいですし、スピーディな展開の中にも、社会の暗部に対する冷徹な視線があり、犯人の描き方、それに対する「私」の態度などもいいと思います。そして迎える苦い結末。しかしラストではユーモア小説らしいオチがついて、苦い印象を引きずらないように書かれているので、読後感は悪くありません。ところで、僕はこの作品を読んで、ドラマ『相棒』シリーズのある回を思い出しました。どの回か書いたら完全にネタバレなので、書きませんけどね。

 「野良猫嫌い」…またも沢田の紹介でやってきた依頼人は、クラブのホステス、みひろ。最近、彼女の暮らすマンションの周囲で、野良猫や飼い猫が立て続けに惨殺されているという。近所でペットを飼っている住人たちが心配し、共同で探偵を雇うことにしたのだそうだ。私は詳しい事情を聞くことにしたが……。
 この作品の結末も苦いです。本書の収録作の中でもいちばん苦い。ストーリーの流れ自体は、私立探偵ものとしてはけっこうありがちな感じもしますが、やはりそこに“動物”という要素が絡んでくることで、ほかの作品とは一味違った雰囲気になります。そして動物絡みの事件を通じて、人の悲しみや苦しみをこれだけ鮮やかに描いてみせる。その手腕は、見事というしかないですね。

 「狙われたヴィスコンティ」…『出場をとりやめろ さもなないと可愛いヴィスコンティに何があっても知らないぞ』――ドッグショーへの出場を目指す安曇利恵子のもとに、こんな脅迫状が届いた。ヴィスコンティ――彼女が飼っているシーズー――は、今度の大会でクイーン間違いなし、BIS――ベスト・イン・ショーも狙える最高の犬なのだという。仕事がなく逼迫していた私は、ドッグショーまでの三日間、ヴィスコンティのボディガードをしてほしいという彼女の依頼を引き受けるが……。
 うーん、これは正直、ミステリーとしての出来はよくないです。ただ、キャラクターの描き方が面白くて、そこが魅力ですね。以前、某TV局の人気女性アナウンサーが、家族で飼っている犬が出場するドッグショーを見に行き、負けてしまって涙を流していたという週刊誌の記事(『FRIDAY』だか『FLASH』だか)を読んだことがあります。なにも泣かなくても、と思ったものですが、この作品の安曇利恵子のように、それに命を賭けてるような人も実際いるんでしょうね。そして、“貧すれば鈍する”という言葉。僕も身につまされます(泣)。

 「失踪」…私が事務所を借りている雑居ビルの一階にあるスナック「ノワール」。そこのバーテンダー野口君から、知り合いの女性が飼っている猫がいなくなったと相談を受けた。また猫かと思いながら話を聞くと、なんでも彼女の家の近所で『猫さらい』のうわさが広まっているらしい。三味線の皮にするために犬や猫を集めている業者がいるのだともいうが……。
 事件の顛末は「なぁんだ」という感じでしたが、この作品で描かれている“三味線の皮事情”はけっこう興味をそそられるものがありました。どこまでほんとうの話か分からないですけど、“動物愛護”を履き違えている連中がいるというのは、シーシェパードや映画『ザ・コーヴ』に関する報道を見ていて感じますし、そういう連中のせいで三味線造りという日本の伝統文化・伝統工芸が苦しい状況に追い込まれているのだとしたら、なんとも釈然としない話ですね。

 「黒い毛皮の女」…細い一方通行路で誤って黒猫を轢いてしまった私は、飼い主探しに奔走する。聞き込みが一段落して自宅に帰ってみると、閉めていたはずの窓やカーテンが開いている。さらに翌朝、事務所に出勤すると、そこにも何者かに侵入された形跡が。いったい何故?
 いかにも正当ハードボイルドといった感じのタイトルですが、やってることは猫の飼い主探しという、そのギャップが笑えます。しかし話は途中から意外とまともなミステリーになっていき、「私」が知らぬ間に事件に巻き込まれていたことが発覚する――というお話。誰かからの依頼ではなく、完全な巻き込まれ型のケースで、一銭の得にもならないどころか、轢いてしまった「彼女」の治療代は持ち出し。ツイてないですね。それはともかく、傷ついた「彼女」の描写がとっても可愛らしくて。キュンキュンしちゃいました。

 以上五編。正直、出来にばらつきはありますが、主人公の“錆びついたハードボイルド・ガイ”といった風情が憎めなくて、読んでいて楽しい作品集です。個人的に、表題作に出てきたアプローズのレナちゃんにはシリーズキャラクターになってもらいたかったのですが、その後の作品には出てこず。ちょっと残念でした。
 本書を読んでいて思ったんですが、我孫子さんってきっと、普通の小説を普通に書けば、かなり面白い作品をいくらでもとはいえないまでも、かなりのペースで書き続けることが出来そうに思えます。我孫子さんのセンスは他の新本格の作家よりも、宮部みゆき氏や東野圭吾氏に近いと評していた人もいましたし、実際、1990年代の宮部氏の短編作品なんかは、似てる雰囲気があるなぁと思います。
 しかし我孫子さんは、あくまでも「自分以外誰も書かないし、書こうと思わないし、書けない」ような作品にこだわります。本書でも、表題作における犯人の描き方とか、人を食ったようなユーモアなんかに、我孫子さんらしさが溢れています。だけど、そうやって独自色にこだわるからこそ新作がなかなか出ないんだろうし――。ゲーム『かまいたちの夜』シリーズでは、プレイヤーの感情移入度を高めるために独自色を抑えた書き方もしていますし、本業でもそういう書き方をもう少ししてくれたら、本の出るペースももう少し速くなるのでは……と思ったりしますね。
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comments(0)|trackback(2)|読書|2010-07-22_03:22|page top

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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
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