闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『探偵は今夜も憂鬱』樋口有介

 『彼女はたぶん魔法を使う』『初恋よ、さよならのキスをしよう』に続く、柚木草平シリーズ第三弾にして、シリーズ初の中編集。「雨の憂鬱」「風の憂鬱」「光の憂鬱」の三編収録。
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 元刑事で、今は刑事事件専門のフリーライター・柚木草平。彼の元には、元上司で恋人の吉島冴子や行きつけのバーのママ・葉子、ゲイバーのマスター・武藤らから、非公式に事件やトラブルの捜査依頼がやってくる。どの依頼も気の進まないものばかりだが、高額の報酬と依頼者の美貌の前には断りきれず、今日も憂鬱な依頼を引き受けるのだが……。
 
 「雨の憂鬱」…警視庁に勤める吉島冴子から紹介された仕事は、冴子の高校の先輩である園岡えりの抱えるトラブルを解決すること。えりの義理の妹・菜保子につきまとっている野田という男を、菜保子から引き離して欲しいという。野田は菜保子とは高校の同級生で、そのころに人を殺して刑務所に入っていたそうだ。高額の報酬と園岡えりの美貌に目がくらんでその仕事を引き受けるが、翌日、園岡えりが殺されて……。
 都会と田舎、旧世代と新世代のような相対する要素を描きながら、そのどちらにも与しない柚木の独特のスタンスがくっきりと浮かび上がってくる一編。事件の謎解きそのものはいわゆる“本格”風のものとは違って、物証もなければ論証も隙のあるものですが、それでも最後に犯人を追い詰める場面の緊迫感はなかなかのもの。美貌を武器に男を手玉に取る女と、女に振り回された男たち、そのどちらにもなんら同情も共感も示さずに、背を向けて去っていく姿がハードボイルドらしくて、格好良い。本書収録の三編のなかでは、いちばん好きかも。

 「風の憂鬱」…失踪した人気女優・沢井英美を探してほしい。芸能プロダクション社長・久保田から受けた依頼。情報が漏れる前に、なんとしても内密に処理したいという久保田の頼みと、十年前に沢井英美のアルバムを買ってしまった過去への義理、そしてなんといっても高額の報酬のために渋々依頼を引き受けるが……。
 この作者の人物描写の上手さが光る作品。特に、沢井英美の育ての親・橋谷藤子の描写が秀逸。柚木に「橋谷藤子のたぬきで酒を飲まなくてはならない客は、いったい人生にどんな罪を背負っているのか」とまで言わしめる、強烈なアクのあるおばさんですが、まあ、場末の飲み屋の女主人なんかのなかには、こんな人がいそうです。で、彼女のその強烈なキャラクターが、育ての子である沢井英美の行動に説得力を付与することになっているから、単なる“目立つ脇役”じゃないんですね。失踪事件の顛末そのものは、個人的にはいまいちスッキリしないんだけど、それでも沢井英美がこの橋谷藤子に育てられたことを考えたら、なんか納得せざるをえないかも。

 「光の憂鬱」…ゲイバー〈クロコダイル〉のマスター・武藤からのつてで紹介されたのは、自由が丘でハンドメイド・グッズの店を開いている外村世伊子からの依頼。三年前に山で遭難し、死んだと思われていた夫から手紙が届いたというのだ。夫の峰夫は植物や動物の写真が専門のフリーカメラマンで、テントと寝袋があればどこでも暮らせて、物質的な贅沢にも関心がなく、政治的・社会的な活動に関与していたふしもない。そんな男がなぜ突然姿を消し、そして三年も経った今になって手紙を寄越してきたのか?
 前の二編と比べて、事件自体はいちばんスケールが小さい感じですが、それだけに、僕ら一般ピーポーにとってはいちばん納得しやすい作品かもしれません。どこにも悪い人がいないという、ある意味ではほっとする話ですが、逆に悪い人がいないのに悲劇が起きてしまうという人間社会の複雑さ、やるせなさを描いてもいて、なんとも言えない読後感を残します。ただ、これをよんで「やっぱりいい人にはなりたくないな」と思ったのは、柚木じゃないけど、たんに僕の人生観が屈折してるだけなんだろうな。

 なんだか作品を重ねるごとにハードボイルドづいてきているこのシリーズ。社会のどこにも属さない“根無し草”の柚木の目を通しているからこそ、さまざまな社会のしがらみに囚われている人々の、哀しみや滑稽さを描くことが出来るのでしょう。
 作者は短編が苦手だそうで、本書のあとがきでも執筆時の苦労を書いていますが、そのあとがきの最後で「どうしてどうして、自分で思っていたほどまずくはないか」とも書いています。個人的には、無駄がそぎ落とされて全体的に引き締まった印象になり、長編以上に柚木の格好良さが引き立っているように感じました。逆にいつものコミカルな表情はちょっと抑え目ですが、それでも所々クスッとさせる文章があって、ガチガチのハードボイルドではないこのシリーズ独特の味も健在です。
 前作のときも書いたけれど、思った以上にこのシリーズ、いやこの作者にはまってきています。柚木草平シリーズ以外の樋口作品も、読んでみたくなりました。近くの古本屋に何冊かあったから、まとめ買いしようかな。
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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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