闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『殺戮にいたる病』我孫子武丸

 本作の発表年は1992年だから、丸20年前ということになる。今なお「新本格」の金字塔の一つと言われ、著者にとっては名刺代わりの代表作でもある傑作。数年ぶりの再読です。
殺戮にいたる病 (講談社文庫)殺戮にいたる病 (講談社文庫)
我孫子 武丸 笠井 潔

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 蒲生稔は愛を求めていた。稔は女を殺すことで、初めて愛の意味を知った。自らの生きる意味を悟ったのだ。しかし愛は、すぐに失われてしまう。稔には愛が必要だった。真実の愛が――。
 都内で続けて発生した女性惨殺事件。乳房を切り取るという手口から、同一犯による連続殺人と思われた。警察の捜査が難航する中、主婦の蒲生雅子は、大学生の息子が殺人犯なのではないかという疑いを抱き始めていた。一方その頃、退職した元刑事の樋口は、事件の被害者・島木敏子の妹・かおるから、犯人探しへの協力を依頼される。
 
 新本格推理のひとつの到達点であり、ミステリ史上に残る傑作といえる本作。ですが、非常に中身がアレなんで――エログロなので、初めて読んだときは、けっこうしんどかった覚えがあります。しかし数年ぶり(たぶん6~7年ぶり)に読み返してみると、意外と読みやすかったですね。それは僕が読書体験を重ねて、エログロ描写をさほど苦にしなくなったためなんでしょうが、じつは文庫本で300ページちょっとと、現代の長編ミステリとしては驚くほど短い作品でもあるんですね。我孫子作品は他の長編もだいたい似たような長さで、1千ページ以上あるような大長編がザラにある時代にあっては、極めて異色の作家です。まあ、他にもいろんな意味で異色の作家ですけど。「短く書く才能」というのがあるとしたら、我孫子氏は非常に類まれな才能を持っているといえるでしょう。

 本作について、以前は「ミステリとしては傑作だけど、小説のテーマとしての社会性・時代性はもう古びているんじゃないの」と思っていたのですが、今回再読してみて、見方が変わりました。この作品は怪物のような殺人鬼の異常さや、そんな怪物を生み出す社会の病理を描いた作品、ではなく、じつは一人の男の〈愛〉の軌跡を描いたものなんですね。クサイようですが、やはり〈愛〉は、人類にとって永遠のテーマでしょう。だからこの作品は時がたっても、けっして古びることはないと思います。
 あまりネタばれに繋がることは書きたくないのですが、やはり最後で真相が明らかになったときの衝撃度は目を見張るものがあります。最後の十数ページの畳み掛けるような展開と、読者を突き放して置き去りにするような結末。この種のトリックは現代ミステリの主流トリックであり、ほとんどこういったトリックを専門に書いているような作家も何人もいますが、我孫子氏はそういう専門家ではないにもかかわらず、この特殊なトリックを孕んだ小説をずば抜けた完成度で成立させている点も驚嘆に値するでしょう。

 もともとデビュー作の『8の殺人』に始まる〈速水三兄妹〉のシリーズなど、ユーモアやスラップスティック調のコミカルな作風で売っていた我孫子氏。濃厚なエログロ描写と高い社会性・同時代性を備えたストーリーを持つ本作は、氏にとって新境地といえる作品でした。僕は何かのインタビューか対談で「(スラップスティックな作品があまり評価されず)真面目に書けば偉いのかと思って」というようなことを著者自身が語っているのを読んだことがあります。そういう言い方をするあたりも我孫子氏らしいと思いますが、そう思って真面目に書いて、それでいきなりこんな大傑作を書いてしまえるというのもすごいです。新本格といえば「人間が描けていない」という批判がお約束ですが、本作を読んでそんな批判をする人はいないでしょう。それどころか、人間心理の絶望的なまでの闇の深さをここまで抉り取った作品はめったにないのでは。
 でも、「真面目に書けば偉いのか」と言いながらも、そこは我孫子作品、どこか底意地の悪いブラックジョークみたいなのも潜んでいる気がします。例えば、息子を殺人者なのではと疑う母親・雅子の描写。物語終盤での、彼女のヘンな変装など、全体的にピントのずれた中年女の描き方は、他の作家が書いていたらともかく、我孫子氏が書くと、なんとなくギャグに見えてしまう――。
 ともかく、本作は傑作です。でも、女性には貸せないなぁ。変態だと思われるもん。
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Theme:推理小説・ミステリー
Genre:本・雑誌

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comments(0)|trackback(0)|読書|2012-07-03_03:50|page top

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行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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