闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『『ギロチン城』殺人事件』北山猛邦

 〈城〉シリーズの第四弾。強固なセキュリティに守られ、外部から完全に隔離された『ギロチン城』で起こる惨劇!
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 処刑道具のコレクターが建てた『ギロチン城』と呼ばれる城館。そこでは一年前、城主の道桐久一郎が密室状況で首を切断されて変死するという惨劇が起きていた。その『ギロチン城』のそばにある“人形の墓場”・人形塚から“HELP”という文字を書く自動書記人形を拾ってきた自称探偵の幕辺ナコは、『ギロチン城』にいる誰かが助けを求めているといい、相棒の頼科有生を伴って城へ赴く。二人が訪れた翌朝、ギロチン城と外部とをつなぐ唯一の門が破壊され、彼らは城内に閉じ込められてしまう。やがて城内で次々と起こる惨劇。密室状態の回廊内で首を切られた少女たち。犯人はどこへ消えたのか?そして頼科たちは事件の謎を解き、人形のメッセージの送り主を救い出すことが出来るのか……。


 以下の文章は、本作の〈犯人の正体〉に関して完全にネタバレになります。未読の方は注意されたし。
 


 ダーク・ファンタジーな世界観と詩的な描写に彩られ、メイン・トリックには驚愕の大掛かりな物理トリックを施した、北山作品らしい一作。90%ぐらいまではとても面白く読みましたが、最後の最後、犯人の正体が明かされる場面で「え?」と頭の中にクエスチョン・マークが10個ぐらい浮かんで、これは推理小説として破綻しているんじゃないかとずいぶん悩みました。今回この記事を書くに当たって該当箇所を何回も読み直して、自分なりに理解はしたのですが、その理解が正しいとして、本作で採用されている叙述技法は、推理小説を書く手法として“あり”なのかというのは、議論されるべきものだと思います。個人的には“なし”だと思うけど。

 本作の犯人は藍である。そして悠でもある。要はセキュリティシステムに声紋と虹彩のデータが登録されている〈藍〉という人物と、指紋と静脈のデータがある〈悠〉という人物は同一人物であり、一人の人物の“首から上”と“首から下”に〈藍〉と〈悠〉という別々の名前が(セキュリティ・データの登録上)与えられているということ。しかしギロチン城を訪れたばかりの頼科とナコは、セキュリティシステムの登録者の表を見て、この城には藍と悠という、別々の人物が存在していると思い込んでしまった。それが本作の〈犯人の正体〉に関する真相です。
 ですが、いくら頼科とナコが勘違いをしようと、もともと藍と悠は一人の人間なのだから、藍と悠が“二人揃って”現れるということは有り得ないはずです。なのに本作では、明らかに藍と悠が二人で登場している場面があります。初日の夜、頼科とナコが初めて藍と悠に会う場面や、その翌朝、藍が頼科をコレクションルームに案内する場面などで、〈藍〉と〈悠〉の言動が別々に描写されていて〈藍〉と〈悠〉が別個に存在しているように読めます。だから僕は最初、〈藍〉=〈悠〉という真相を知って「じゃあ、あのときの悠は何処にいったの?」と思ったのです。
 本作の地の文は三人称で書かれています。おそらく作者の主張としては、三人称=神の視点なので、藍=悠であることを織り込んだ上で叙述をしてもルール違反には当たらないということなのでしょう。また〈藍〉=首から上、〈悠〉=首から下ということを踏まえて、藍については表情についての描写、悠は首から下の動作の描写のみに限っているから、嘘は書いていないともいえます。ですが、本作は三人称とはいっても基本的には頼科の視点で、彼が見聞きし、感じ考えたことが描写されているので、実質的には頼科の一人称と変わりありません。つまり「僕は」「私は」と書く代わりに「頼科は」と書かれているだけ。で、ある以上、まだ頼科が藍=悠かつ〈藍〉=首から上、〈悠〉=首から下であるということを認識していないこれら場面で、〈藍〉と〈悠〉がはっきり区別されて描かれるのは、やはり「地の文に嘘を書かない」とか「読者に示されていない情報を推理の材料にしない」という推理小説のルールに反しているのではないでしょうか。

 いま、Amazonのカスタマーレビューを確認したけれど、誰もこの問題を指摘していないというのは驚きだな。みんな一読して納得できたんだろうか。

 『ギロチン城』に暮らす人々の間では、通常〈悠〉と呼び習わされているが、当の本人は、自分は〈藍〉であると思っている。もちろん作中で頼科も指摘しているように、体も意思も自分のものとして統一されている(けっして多重人格などではない)のなら、名前なんてどっちでもいいじゃないかという指摘はありうるでしょう。しかし一方で「名は体をあらわす」と言うように、名前がその人そのものを象徴するものである以上、首から上と首から下に別々の名前を付けられた彼女の苦悩も理解は出来る。〈藍〉が〈悠〉を消し、ただ一人の藍になりたいと願った、その心情も想像はできます。彼女が最後の場面で見せる微笑みは、たくさんの犠牲を払った末に藍というたった一人の自分を手に入れた、満足感ゆえの笑顔だったのかもしれません。

 叙述に関する問題は推理小説として本作を論ずる上では大問題ですが、それ以外の部分は非常に面白く読めました。北山氏はデビュー以来「人間が描けていない」と批判されているみたいですが、僕自身はファンタジックな北山作品の世界観の中では、いささかマンガチックな登場人物たちがピタリとはまっていると思います。詩的な文章で表現される登場人物たちの内面描写も、僕はけっこう好き。
 本作は〈城〉シリーズ最終作。最終作にして、今までのシリーズに登場したキーワードがいくつも登場し、シリーズ各作品がリンクしていることを匂わせていますが、今のところさらなる続編は出ていないようなので、今後は別の北山作品を読んでいくことにします。ファンタジックな世界観を構築する北山氏の手腕が、〈城〉のない作品でどのように発揮されるのか。楽しみですね。
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Theme:推理小説・ミステリー
Genre:本・雑誌

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comments(2)|trackback(1)|読書|2013-08-20_23:52|page top

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北山猛邦 『ギロチン城殺人事件』 感想
『ギロチン城』殺人事件 (講談社文庫)北山 猛邦 講談社 2009-03-13売り上げランキング : 237364Amazonで詳しく見る by G-Tools ----あらすじ---- 人形が捨てられる“墓場”・人形塚で拾った

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そういえば叙述あったね
おはようでざんす。
私も今作の叙述トリックについて多少の違和感を覚えた記憶はあるのですが、過去の自身の記事を読むと批判はしていませんね。それは多分、終盤の推理小説とは思えない派手な展開や、北山氏の専売特許である大掛かりな物理トリックに気を取られた為、叙述トリックに関しては「あ、そういう事だったんだ。」程度にしか思わなかったのだと思う。細部に渡って長所と短所を指摘しているtamacatさんの文章を見て、自分ももっと細部に拘って読まなければな、と些か反省もしました。

北山氏は作品があまり多くなく、音野シリーズくらいしか読んだ事はないけど、城シリーズよりは軽いタッチがまた新味。是非ご一読を。
メインは回廊のトリック
>>峰川幸介三世さま。
前作『アリス・ミラー城』でも叙述トリックがありましたし、現代本格ミステリで叙述トリックを用いない方が珍しいぐらいでしょうね。とはいえ、本作の叙述の仕方はかなりギリギリだと思います。

軽いタッチの北山作品ですか。それも読んでみたいですね。批判的なことも書いていますが、基本、北山ワールドは好きなんで。

プロフィール

tamacat

Author:tamacat
行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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