闘争と逃走の道程

負けっぱなしの人生ですが、いつも「最後に笑うのは僕だ」と、何の根拠もなしに信じています。

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小説『盤上のアルファ』塩田武士

 第5回小説現代長編新人賞を受賞した、塩田武士氏のデビュー作。人生のどん底を見た嫌われ者の二人が出会い、やがてそれぞれの再出発へと足を踏み出す、熱い感動のストーリー。
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 秋葉隼介は神戸新報の県警担当記者。しかしその性格の悪さが災いし、文化部の囲碁将棋担当記者に左遷されてしまう。失意の秋葉が行き着けの飲み屋で偶然出会ったのが、元奨励会員で同い年のアマチュア将棋指し、真田信繁だった。プロ棋士への夢を諦めきれず、三段リーグ編入試験を受けたいという真田に、秋葉は酔った勢いで「お前がプロになれたら、俺は新聞社を辞める」と約束してしまう。しばらくして、家賃滞納で住処を追われた真田が秋葉のマンションに転がり込んできた。その日から秋葉と、人生の起死回生をかけて三段リーグ編入試験に挑む真田との奇妙な共同生活が始まった――。
 


 普段推理小説しか読まない僕が本作を読むことにしたのは、将棋が好きだからですが、将棋を題材にした小説というのも初めて読むものなので、最初はどんな話なのか予想もつきませんでした。内容としては、中年に片足のかかった男二人の、人生のリスタートを描いたおっさん青春小説とも言えるし、秋葉と真田、それに飲み屋の女将・静と女流棋士・加織がからむ恋愛小説という一面もあります。不遇な日々を過ごす真田の半生の描写からは、日本社会の歪みや生き難さを訴えているという面もなくはないかも。ですが、読んでいてもっとも印象に残るのは、登場人物たちの生き生きとした、関西弁による会話です。全編、シチュエーションコメディのような軽快な会話が続き、シリアスなシーンでも思わず笑いそうになるところも。作者自身が尼崎生まれで関西学院大卒、その後は神戸新聞社勤務という、人生の全部を兵庫県南部でどっぷり過ごしてきた人だけのことはあります(県境を越えて大阪に行ってないことに好感が持てるなぁ)。

 また、本作は三人称で書かれているのですが、この〈三人称形式〉であるということをこれほど意識した小説は、珍しいかもしれません。三人称は神の視点と言いますが、実質的には主人公が見たり聞いたり感じたことを、その主人公視点で描写しているだけで、例えば「太郎は……」などと書いてあっても、「僕は」「私は」と書くのとほとんど変わらないものが多いと思います。ですが本作は、明確に〈神の視点〉がある。その視点は、時に登場人物の外形を描写し、または内面に入り込み、また時には人物を離れて周囲の情景や場の空気を描写します。三人称が〈神の視点〉であることを十全に活かしたこの描写力と文章力、新人作家のデビュー作とは思えないぐらいのハイレベルだと思います。
 その描写力の高さゆえに、物語の中心人物が基本、秋葉と真田の二人しかいないにも関わらず、作中で登場する人物はみな、端役に至るまでキャラが立ちまくっていて、逆にそれが欠点といえるかもしれません。ストーリーの本筋に絡むわけでもないのにそこまで濃いキャラ用意せんでも、という感じ。特に序盤の女流王位戦控え室でのコントじみた一幕は、あくまで前振りに過ぎないわりには、気合入りすぎです。
 前振りというと、じつはこの小説の半分以上が前振りに過ぎなかったりもします。秋葉が囲碁将棋担当に回されて、右も左もわからない世界に戸惑うくだりと、真田の悲惨な少年時代をプレイバックする回想シーンだけで、全ページ数の半分近くを消費しています。真田が編入試験に向けて真剣に将棋に取り組み始めるのはさらに後半になってからで、彼の努力の様子や苦しむ様子、あるいは真田の師匠となる千田九段や試験の対局相手となる奨励会員たちのキャラクターはあまり描かれていません。ページ数的な制約ゆえに書けなかったのか、それとも作者が意図して書かなかったのか――たぶん後者だとは思うのですが、前半の端役たちが異様なほどキャラ濃ゆく描かれているのとギャップがあるので、少し物足りない感じもしますね。

 本作は第5回小説現代長編新人賞を受賞した作品であるとともに、2011年の第23回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)受賞作でもあります。最近は「礼儀や我慢を覚えられる」というような理由で子供に将棋を習わせる親が増えているそうだけれど、そうは言っても将棋界の仕組みやプロ棋士になるルール、プロ棋士たちの日ごろの生活ぶりとか、知らない人の方が多いと思います。そういう意味では、かなり読み手を選びそうな作品。ですが、本作はこれと言った予備知識なく読んでも、間違いなく楽しめる一級の娯楽作です。
 プロ棋士・先崎学九段も絶賛し続編を熱望した本作、その熱い要望に応えてこの春、続編『盤上に散る』が発表されています。が、これがどうも、単純な続編というわけではなく、本作に登場した“ある人物”の過去を深く掘り下げたストーリーになっている模様。こちらもいずれ読んでみたいですが、塩田氏の書く文章自体がとても魅力的でファンになったので、将棋を題材にしていないほかの作品も、読んでみたいですね。


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comments(0)|trackback(0)|読書|2014-10-04_18:40|page top

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Author:tamacat
行動力なし、責任感なし、度胸なし。理屈っぽい。理に適わないことはきらい。
でもその“理”を支えているのは、実はすべて直感と思い込みだったりもする。そういう人。

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